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テナガザルの身体能力の高さと脳の発達
北村浩司 壮年 滋賀 広報 20/03/08 AM00
テナガザルは樹冠に適応するため、腕力・脚力・背筋力に加えて、著しく平衡感覚が進化している。地上30メートルに及ぶ熱帯雨林の樹冠は枝も細く、かつ上空は風も強く木々も揺れるためであろう。
実際その平衡感覚の秀逸さゆえに、高い樹上でも直立歩行ができ、特に訓練しなくても綱の上を二本足で歩行できるようだ。また足の指で樹の枝を片手でつかむ逆さ吊りの状態から、身体を起こして移動したりもする。

オランウータンに至っては、地上30メートルの樹上にベッドを作りそこで眠る。眠っているときでも平衡感覚が働いているからこそ、それが可能なのである。サル全般が樹上に棲息するため平衡感覚は優れているが、中でも類人猿系、特にほとんどの時間を樹上で過ごす、テナガザルやオランウータンは上記の軽業師のごとき身体能力を誇る。平衡感覚が優れているという事は、体の動きや揺れに伴って重心の移動を感知し、筋肉の動きを微妙に調節する神経回路が極めてち密に張り巡らせれているという事でもある。

では、何故このような平衡感覚の発達を可能にし得たのか?一つにはテナガザルの授乳期間の長さによる親和回路の発達と、それに伴う皮膚感覚の発達があげられる。
加えてテナガザルに特徴的なのは、授乳中の赤ん坊は、基本的に母親にしがみついて密着しているという事である。テナガザル系は移動時に母親が樹々を腕渡りする。その際は両手を使うため、母親による抱きかかえは不可能である。時には母親の身体は逆さにさえなる。子供はしがみつくことによって母親の重心の移動を体感し、子どものころから平衡感覚をはじめとするを身体能力を養っていくのであろう。
更にそれだけではなく、テナガザルの子育てにおいては、授乳期間中から母親に見守られながら、樹上を歩いたり、腕渡りの訓練をする姿が見受けられる。さらにオランウータンでは子供の間の遊びも基本的に樹上で行われる。これらによって幼少期から身体能力を培っていくのだろう。

翻って、人類を見るとき、人類は確かに肉体的には著しく非力であるが、ほかの動物にない複雑な動きが可能である(自転車に乗る、野球などの球技を行う)。原始時代においては、当初は直立して走ることを可能にした。その後進化するにつれて。走りながらやりを投げるなど、他の物体に運動力を与え、しかも正確に標的を射抜くという、ある意味では離れ業を可能にしていた。
もちろんそれを可能にするには多大な訓練を必要としただろう。しかし、それを可能にしえたのはテナガザル時代に培われた平衡感覚(重心をコントロールする能力)を始めとする身体能力(を支える神経回路)だったのではないだろうか?
オランウータン起源説が提唱されているが、この身体能力の秀逸さを引き継いだという意味でも、樹上を主要な住処とするオランウータン説の方が整合する。そしてこの運動系の神経回路の発達が、授乳期間の延長→親和系の回路の発達に次ぐ、テナガザル→人類の脳進化のもう一つの基礎となっているように思う。
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